東京高等裁判所 昭和28年(ネ)674号 判決
東京地方裁判所が控訴人ら被控訴人間の同庁昭和二十七年(ヨ)第五九二七号株主権仮処分申請事件につき昭和二十七年十一月七日にした仮処分決定はこれを認可する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二、事 実
控訴人ら代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は、控訴人ら代理人において、控訴人天野か訴外相場精一郎から交付を受けた被控訴会社の株式合計三十四万五千株はすべて、控訴人天野の右相場に対する各貸金債権の担保として控訴人天野において譲渡を受けたものであり、ただ右貸金の弁済期に相場がその支払をすれば控訴人天野はこれを相場に返還すべく、その期間内は控訴人天野が勝手にこれを処分することを得ないものとするとともに、各弁済期に相場が借受金の支払をしないときは同人は右株式を取り戻す権利を失い、控訴人天野はこれを自由に処分し得ることと定めたものである。控訴人天野が訴外加藤治三郎から交付を受けた被控訴会社の株式五千株についても同様である、しかるに右相場及び加藤は各弁済期にその弁済をしなかつたから右各株式を取り戻す権利を失い、控訴人天野はこれについての処分の制限を免れたのである、原判決の事実摘示に、これらの株式は、控訴人天野において代物弁済の特約にもとずき、右相場及び加藤に対する各貸金債権の代物弁済としてその権利を取得したとされているところはあやまりであると述べた外、すべて原判決の事実のらんに記載されたところと同一であるから、ここにこれを引用すると述べた。
<立証省略>
三、理 由
成立に争のない甲第六号証の一ないし六の記載に原審における証人相場精一郎、同林余所吉の各証言(いずれも後記信用しない部分を除く)及び当審における控訴人天野修一本人尋問の結果をあわせると、控訴人天野修一は訴外相場精一郎に対し(一)昭和二十五年十二月二日に弁済期を昭和二十六年一月三十日と定めて金二百五十万円を、(二)昭和二十五年十二月六日に弁済期を昭和二十六年二月三日と定めて金五十万円を、(三)昭和二十五年十二月十四日に弁済期を昭和二十六年二月十一日と定めて金二百万円を、(四)昭和二十五年十二月十五日に弁済期を昭和二十六年一月十三日と定めて金百万円を、(五)昭和二十五年十二月十九日に弁済期を昭和二十六年二月十六日と定めて金八十万円を、(六)昭和二十五年十二月三十日に弁済期を昭和二十六年二月二十七日と定めて金六十万円をそれぞれ貸与したこと(右日時金額弁済期を除き、金員貸与の事実は被控訴人の認めるところである。)を認めることができ、右相場が前記(一)の日に被控訴会社の株券十万株分、(二)の日に同二万五千株分、(三)の日に同十万株分、(四)の日に同五万株分、(五)の日に同四万株分、(六)の日に同三万株分、合計三十四万五千株分を控訴人天野に交付したことは本件当事者間に争いない。
控訴人らは右相場から右三十万五千株の被控訴会社株式を前記貸金債権の担保として前記金員貸与と同時にそれぞれ前株式名義人の白地裏書のまま譲渡を受けたものであると主張する。前記甲第六号証の一ないし六、成立に争のない甲第七号証の各記載、前記証人相場精一郎、同林余所吉の各証言(いずれも後記信用しない部分を除く)、控訴人天野修一本人尋問の結果、前段摘示の事実及び本件口頭弁論の全趣旨をあわせ考えると、控訴人はかねて知合の加藤治三郎を通じて当時被控訴会社(旧商号千代田港湾倉庫株式会社)の代表取締役であつた相場精一郎と相知つたのであるが、右相場は、被控訴会社の事業資金等にするため他から高利で金員を借りていたのを控訴人天野から日歩十六銭位の利息で借替え、その他更に会社の事業資金等に投ずるため、前記のように控訴人天野から六回に合計金七百四十万円を借受け、その担保として同人か株主もしくはその処分権を有していた被控訴会社の株式三十四万五千株を控訴人天野に譲渡することとし、その一部は他の債権者に担保として差し入れてあつたのを取り戻した上、前記各株券の裏書欄に株式名義人である裏書人の捺印があつて裏書人及び被裏書人の記名のないものを、右捺印にかかる印影が会社届出の株主の印かんによるものと同一である旨の被控訴会社株式課長の証明書とともに前記のように前後六回に控訴人天野に交付したものであつて、その外には相場は控訴人天野に対してなんらの担保を供さなかつたことを認めることができる。被控訴人は右株券の交付は相場と控訴人天野との合意にもとずき被控訴会社の株式を株式市場に上場株とする目的でその株券を控訴人天野の手許に集中し便宜保管せしめたものに過ぎないと主張し、前記証人相場精一郎、同林余所吉の各証言中には右主張に副うような部分があるか、右各証言は前記控訴人天野本人尋問の結果とくらべて信用できない。また成立に争いのない乙第一号証は昭和二十五年十二月二日株式十万株についての預り証で、これには「右正にお預り致しました。名義変更又は売買譲渡等は一切致しません。万一違約した場合は失権等如何様に御処置相成共異議申しません」とあるけれども、前記控訴人本人尋問の結果によれば、前記各貸金の弁済期までは相場において債務を弁済して右各株式を取り戻し得るもので、それまでは控訴人天野において名義変更、売買その他の処分をしないという特約があつたことがうかがわれるのでこのことと前記他に担保のないこととをあわせ考えると、右乙第一号証の記載は右特約の内容を示すに過ぎず、これをもつて本件株式が担保として譲渡されたものでないとすることはできない。その他に前認定をくつがえすべき疏明はない。しかして株券の裏書による記名株式の譲渡にあつて、裏書人の捺印のみで記名を欠く場合は、裏書人は株券の引渡と同時に自己の記名の補充権を譲受人に委託したものと解し、その補充権は株券とともに輾転し、株券を取得したものがこの補充権を取得するものであるから、本件における前記のような裏書は控訴人においてその株式の譲渡を受けるについて適式のものというべきである。しからば控訴人天野が被控訴会社の株式三十四万五千株を取得したものであることは明らかである。
次に前記控訴人天野本人尋問の結果及びこれにより成立を認め得る甲第八号証の記載をあわせれば、控訴人天野は訴外加藤治三郎に対し昭和二十五年八月二十一日金八十六万円を弁済期同年八月三十日と定めて貸与し、その担保として右加藤より被控訴会社株式五千株の譲渡を受け、その頃同様の方式による裏書ある株券の交付を受けたことを認めることかできるから、控訴人天野は右株式五千株を取得したものというべきである。
以上のように控訴人天野の取得した被控訴会社の株式合計三十五万株が原判決添附の第一ないし第五号目録記載の株券合計三十万一千八百株分に表現せられる株式を含むものであることは、成立に争のない乙第一ないし第五号証の記載及び本件口頭弁論の全趣旨により明らかである。控訴人天野がこのうち原判決添附第四号目録記載の株式を控訴人杉山玉夫に、同第五号目録記載の株式を控訴人野口国蔵に、いずれも昭和二十六年六月初旬頃、前同様の裏書人の捺印のみのまま譲渡し、その株券を交付したことは前記控訴人天野本人尋問の結果により認め得るところであつて(控訴人天野が相場より本件株式を担保として譲渡を受けた際、貸金債権の弁済期前は処分することができない旨の特約のあつたことは前記のとおりであるか、右弁済期に弁済のあつたことは本件においてこれを認めるべきものがないから、その後において控訴人天野が右株式を有効に譲渡し得ることはもちろんであり、これを自己名義に名義書換し得ることについても同様である。)、控訴人杉山、同野口はこれによつてそれぞれ前記のとおり被控訴会社の株式を取得したものといわなければならない。
しかして控訴人天野が被控訴人に対し昭和二十六年六月二十二日前記第一号目録記載の二万株、同年七月二日同第二号目録記載の十一万六千八百株、昭和二十七年一月三十日同第三号目録その一記載の十万株について、その株券を提出してそれぞれ控訴人天野名義に株式名義の書換を請求したが、被控訴人はいずれもこれを拒絶したこと、同第三号目録その二記載の五千株は被控訴人が名義書換に応じないことが明白なのでこれを請求しないこと、控訴人杉山が被控訴人に対し昭和二十六年六月二十七日前記第四号目録記載の五万五千株について、控訴人野口が同月二十二日同様第五号目録記載の五万株について、それぞれ右株券を提出して右控訴人ら名義に株式名義書換を請求したが、いずれもこれを拒絶されたことは当事者間に争いない。控訴人らの取得した株式についてはその株券の裏書欄にはたんに名義人である裏書人の捺印があるだけであるが、このような方式によつて株式を取得した者が会社に対し自己に名義書換を請求するのに名義人の裏書欄の記名を補充しないでそのまま株券を会社に提出したときは、右補充をさらに会社に委託したものというべきであるから、会社としては右の記名を補充した上株券及び株主名簿の名義書換をなすべきものであつて、右のような裏書人の記名の欠缺を理由として名義書換を拒むことはできない。その他に被控訴人が控訴人らの名義書換の請求を拒絶すべき正当の事由のあることはこれを認め得ない。このように被控訴会社が正当の事由なく株式の名義書換を拒んでいる場合、控訴人らが被控訴人に対し株式名義書換請求訴訟を提起し、その勝訴の判決が確定するまでその株主権を行使できないとすれば、その間被控訴会社のあり方の如何によつては控訴人らは著しい損害をこうむるおそれがあることはみやすいところであつて、前記控訴人天野本人尋問の結果によれば被控訴会社はすでに前記相場精一郎の手をはなれ、その経営状態は悪く、その株価は下落の一途をたどつて無価値同然となり、このまま推移すれば株主の権利を著しく害するにいたるべきことをうかがい得るところであるから、控訴人らをしてその名義書換請求訴訟の判決確定にいたるまで、仮りに前記各株式についてその株主権を行使させることは本件においてその必要あるものといわなければならない。
しからば東京地方裁判所が控訴人ら対被控訴人間の同庁昭和二十七年(ヨ)第五九二七号仮処分命令申請事件について、昭和二十七年十一月七日にした前記趣旨の仮処分決定は相当であつてこれを認可すべきものである。これと異なる原判決は失当であるからこれを取り消し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十六条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 藤江忠二郎 原宸 浅沼武)